函館地方裁判所 昭和23年(行)5号 判決
原告 佐藤蓊
被告 木古内町議会
一、主 文
被告が昭和二十三年九月二十日原告に対してなした木古内町議会議員除名決議は之を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求の原因として原告は昭和二十一年五月三十一日木古内町で施行された町会議員選挙に当選した町議会議員であつて且つその議長に選挙されたものである。ところが偶々昭和二十三年八月右町議会は同町新設の中学校敷地を同町佐女川神社所有の畑地と予定し、その八千六百三十三坪の買収を決議し右に基き木古内町ではその手続上まずその小作人の耕作権抛棄を勧誘の上その承諾書を作成し之を添付して北海道知事に対し農地調整法第二條第一項の規定に基き所有権移転の申請書を提出した。しかるに右承諾書中には事実承諾して居ない者があり又強迫により己むを得ず承諾書に捺印した者もあることが判明したので当時町議会議長であり又木古内町農地委員会委員長をも兼ねて居た原告は後日の紛爭を慮り偶々所用があつて北海道庁に赴いた際所轄官庁に対しその実情を訴え善処を要請したところが此事が一部町議会議員の忌むところとなり、昭和二十三年九月二十四日開会の木古内町昭和二十三年第四回臨時町議会に於て右事実を捉え議員熊谷富太郎から原告を懲罰に附する動議が提出され其結果原告は同町議会の懲罰委員会に附せられ同日右委員会で審査の結果同議会は原告を除名処分にすることを議決し、翌二十五日除名の通知書を原告に送達した。併し乍ら前敍の如く原告は何等除名処分に処せらるべき所為をした覚えはないのであるから右議決は不当も甚しいと謂わなければならない。仍て右除名決議の取消を求めるため本訴に及んだと陳述し被告代理人の本案前の抗弁に対しては其理由がない旨陳べ、本案の答弁事実中原告の主張に反する部分は之を否認すると陳べ、
被告代理人は訴却下の判決を求め市町村議会議員の除名の決議に対しては議員から裁判所に対し其の除名取消訴訟を提起することが出来ないものであるから本訴は却下せらるべきものであると陳べ本案の答弁として原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として原告が昭和二十三年五月三十一日木古内町で施行された町議会議員選挙で当選した町議会議員であり、昭和二十三年八月当時原告が右議会議長の位置にあつたこと其頃右議会が同町新設の中学校敷地を同町佐女川神社所有の畑地と予定し其の八千六百三十三坪の買収を決議し右に基き木古内町では其の手続上先ず其小作人の耕作権抛棄の承諾書を作成し、之を添付して北海道知事に対し農地調整法第二條第一項の規定に基き所有権移転の申請書を提出したこと及被告木古内町議会が昭和二十三年九月二十四日原告主張の如く原告を除名する決議をしたことは何れも之を認めるが其余の原告主張事実は之を否認する。被告議会が原告を除名した理由は次ぎの通りである。即ち原告は木古内町議会議長として議会内に於ける行動として(1)議事進行中議員の発言に対し屡々無教養者呼ばりをして議員を侮辱し、(2)議長席に在り乍ら濫りに発言をして議場を混乱に陷れたことが毎々あり(3)町議会で意思決定をした事項に対し議会外に於て之を妨害無視する様な行為をしたため議会に於て之を糺彈され遺滅の意を表し乍ら直ぐ又之に反する行動をとる際食言行為をなしたもので、右の行為は原告が其主張の木古内町中学校敷地買収に当り候補地である畑地の小作者の耕作権抛棄を回り原告が偶々当時木古内町農地委員会委員長であつた関係から町議会の意思決定は小作人に異議があると云つて之に反対し右畑地は農地委員会で買収計画に入れ、之を小作人に分与するのが正当である旨の文書を配布せしめたり、又町議会の代表が昭和二十三年九月二十二日北海道庁に出頭し中学校敷地に対する申請書を提出して道農地委員会に附議することの承認を得たのに対し原告は同日単身道農地課に出頭し申請書は議会の一致した意見でないと陳情し之を覆えした様な行動があつて是等一連の所為は前敍の如く原告の議場内の行動として現れたのであつて、前記の議会内の原告の行動は木古内町議会会議規則第百四十四條所定の事項に該当するので地方自治法第百三十四條第百三十五條により昭和二十三年九月二十四日の町議会で適法な手続を経て被告を除名の決議をした次第である。仍て原告の請求は失当であると陳述した。
(立証省略)
三、理 由
先ず本案前の抗弁につき按ずるに凡そ普通地方公共団体の議会は通常執行機関ではないが、地方自治法第百三十四條によつて懲罰を課するときは其の議決によつて直接議員に効力が及ぶから此の場合は行政庁として処分取消の訴の被告となることが出来るから本件の場合に於ても右の理由により訴訟は適法であつて被告の抗弁は理由がないものと謂わなければならない。
次ぎに本案につき按ずるに原告が昭和二十一年五月三十一日木古内町で行われた町議会議員選挙に当選した町議会議員であつて昭和二十三年九月二十四日当時まで同議会議長の職にあつたこと、及同年同月同日原告が同議会の懲罰委員会に附せられ除名の議決を見たことは当事者間に争いのないところである。
仍て右除名の議決が正当のものであるかどうかにつき考えてみる。凡そ議会に於ける議員に対する懲罰は特別権力関係に於ける秩序維持の見地から其の主体に与えられた一つの権能である。従つてその懲罰の対象となる行為も議会の秩序維持に必要な範囲に限らるべきこと当然であつて、たとえ議会規則でその目的を超えて懲罰の事由を定めても其効力を持たないものと云わなければならない。
飜て被告の主張する被告議会の原告に対する除名決議の対象となつた原告の行為につき検討して見ると成立に争いのない乙第二号証の一(昭和二十四年九月二十四日木古内町臨時議会会議録)同第二号証の二(報告書)記載によれば本件懲罰の目的となつた原告の行為は偶々木古内町新制中学校校舍敷地問題に関し原告が一方農地委員会委員長の職にある関係から農地改革関係法の解釈に私見を交え会議の席上に於て協力を誓い乍ら議会外に於て反対行動を採り背信的な所為が目に余つたので原告は昭和二十二年九月一日の第四回定例議会で議員から之を糺彈され公開の席上で陳謝したが、被告議会は尚之を以て不足とし原告の議長辞職勧告の決議までしたのであるが、尚原告の反省を期待して其執行を猶予して来たところ、昭和二十三年九月十一日木古内町農地委員会席上で議会と私設組合とを同一視する暴言を発し議会の権威を失墜せしめ議長の職責と体面を汚した事件が発生し加之同年九月二十二日道農地部農地課に町議会連合常任委員会から三名の代表其の他が出頭し中学校敷地に対する申請書を提出し道農地委員会に附議することの承認を得たるに対し原告は同日単身道農地課に出頭し申請書は議会の一致した意見でないと之が反対の意見を陳べ右承認を覆えした事実が除名決議の対象となつた事が認められる。併し乍ら以上は何れも原告の木古内町議会内の所為ではなく悉く議会外に於ける行動であり、或は右行為が議長として非難さるべき所為と認められる点多多ありとするも懲罰の対象となるべき所為が前叙説明の如く專ら議会内の秩序維持の範囲内に限らるべきものであるから、右所為を処罰の対象とした被告議会の除名決議は失当たるを免れない。尤も被告は原告の議会内の行為として前叙主張の如き事実を挙げ之を以て除名議決の理由の一つにした旨主張するけれども成立に争いない乙第二号証の二の記載にもある通り原告は従来屡々自己の意見に従わざる者に対しては教養なきものとして蔑視した事等があつたが、是は被告議会に於て隠忍して不問に附して来たことが認められ、本件懲罰の対象となつたものとは認められず、被告議会代表者西山兼松の供述も亦其適確に被告主張の事実を認める資料たり難い。果してそうだとすると被告議会が原告を除名議決をしたのは結局其当を得ないもので取消を免れないと謂わなければならない。仍て原告の請求を正当で事由ありと認め訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決をする。
(裁判官 川島晋)